ブレーキ豆知識 交換促進ペーパー
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第30号掲載
クルマのブレーキを作動させるのに用いられるブレーキフルードですが、よく「グリコール系」とか「植物油系」などと言われたりします。
またブレーキフルードはクルマの塗装を溶かしてしまったり、水分を吸いやすく、水分を吸うと沸点が下がってしまう、なんて聞いたことがありませんか?
このような特殊な液体であるブレーキフルード。

なぜこの液体が使われているのでしょうか?

答え


ブレーキを作動させる液体には、「極低温で凍りにくく、高い温度でも沸騰しにくい」「低温から高温まで安定して粘性が低く流動性が良い」「圧力による体積変化が少ない」という性能が求められます。それを満たすものが現在ブレーキフルードとして主に使用されている「ポリエチレングリコールモノエーテル」を主成分とした液体であるために、長年ブレーキ用作動液として用いられています。

ちなみにグリコール系の液体は油(オイル)ではないので、ブレーキオイル(ブレーキ油)ではなくブレーキフルード(ブレーキ液)と呼ぶのが正解です。(ただし産業機械や古い輸入車などでは鉱物油をブレーキ作動油として使われていた例もあり、この場合はブレーキオイルとなります)

グリコール系液体はアルコールのような性質の為、水分と混ざり易いという性質があります。水分が混ざると沸点が下がり、長い峠道を下った時などにブレーキフルードが沸騰して気泡が発生し、ブレーキが効かなくなる「ベーパーロック」という大変危険な現象を起こす可能性がありますので、ブレーキパッドの残厚のチェックと同時にブレーキフルードも定期的な点検、交換が必要です。
第29号掲載
ドラムブレーキは、ブレーキを掛けていない時には当然ライニングとドラムの間に隙間があります。
この隙間はオートアジャスタ機構によって常に一定の数値を確保するように設計されています。

さてここで問題です。
この隙間の量はどのように決めているのでしょうか?

答え


長い下り坂を下った後などのドラムが高温になった後に、ドラムとライニングとの隙間が狭くなりすぎて引摺りが発生しないように隙間の量を決めています。

そもそも、なぜドラムが高温になった後にドラムとライニングとの隙間が狭くなるのか、を説明します。

下り坂などで長くブレーキを掛けているとドラムが高温となって熱膨張し、ドラム径が大きくなりライニングとの隙間が大きくなる。
→この状態でブレーキを掛けるとオートアジャスタが作動し、ライニングを拡張しドラムとの隙間を詰める。
→やがてブレーキ負荷の少ない平地に出ると、ドラムが冷えて縮まりドラム径が小さくなる(元の径に戻る)。
→高温時にオートアジャスタによってライニングが拡張した分、ライニングとドラムの隙間が通常より狭くなる。

このような状態になっても引摺りが発生しない様に、またブレーキフィーリングなども考慮して最適な隙間を設定しています。

したがってパーキングレバーの引き代を短くしようと、むやみにオートアジャスタのコマを詰めてドラムとライニングの隙間を詰めてしまうと、
通常の走行時はそれほど問題は出ませんが、長い下り坂を下ったりした後などに引摺りが発生してしまう可能性があります。

ブレーキパッドやライニングが摩耗していると、ブレーキが高温になったときにフェードやベーパーロックを起こす危険もある為、
正しい整備を行うと共に、ブレーキパッドやライニングの摩耗量チェックも重要です。
第28号掲載
ブレーキを掛けていない時のディスクロータとブレーキパッドの隙間は凄く狭くて、ほんのちょっとだけ引き摺っていますよね?
もっと隙間を広げて引き摺らない様にした方が、燃費にいいんじゃないの?と思っている方もいらっしゃると思いますが、実はあまり隙間を広げられない理由がいくつかあります。

さてそれはどういった理由でしょう?

答え


隙間を広げられない理由には、主に以下のようなものがあります。

@ ペダルストロークが長くなってしまう。
ブレーキパッドとディスクロータが接して効きが出始めるまでに、隙間が広いとその分多くのブレーキフルードをシリンダ内に送り込んでピストンを動かさねばならず、結果としてペダルストローク長くなってしまいます。
ドライバーのフィーリングとしては、ペダルを踏込んでもすぐに効きが出ず、奥まで踏込まないと効きが出ない、あるいはペダルの踏み応えがフニャフニャした剛性感のないものとなってしまいます。
A ディスクロータに付着した異物を排除する。
ディスクロータは常にむき出しになっているので、雨の日には水が付着したり、未舗装路を走れば泥も付着します。
こういった付着物がディスクロータに付いていると、ブレーキを踏んでもすぐに効きが出なかったり、ブレーキパッドやディスクロータ表面を荒らしてしまうので、常にほんの僅かにブレーキを引き摺らせて、汚れ落しをしています。
特殊な事例としては、ブレーキパッドとディスクロータの隙間を少し広めにした車両で、粉雪がこの隙間に入り込み、全くブレーキが効かなくなる「スノーフェード」という現象が発生したものもあります。



隙間は広いと上記のような問題が出ますし、狭いと引き摺りによる燃費悪化やジャダーの要因となるディスクロータの肉厚差を成長させてしまいます。
ブレーキはこのようなジレンマと戦いながら開発しています。

ブレーキパッドも斜めに摩耗していたりすると引き摺ったり、部分的にディスクロータと隙間が出来たりしますので、定期的な点検が大切です。
第27号掲載
普段何気なく扱っているブレーキパッドも、良く見ると適用車種ごとに大きさが違いますよね?
小さな車には小さいパッドが、大きい車やスポーツカーには大きなパッドが使われますが、擦る部分であるライニングは同じ材質が用いられていることもあります。ライニングが同じ材質であるということは、摩擦係数(μ)は変わらないので、効きが良くなるというわけではありません。
さてそこで問題です。
大きい車やスポーツカーのブレーキパッドが小さい車のブレーキパッドに比べて大きいのは、どのような理由からでしょうか?

答え


面積(体積)を大きくすることにより、ブレーキパッドの温度を上がりにくくするため大きさを変えているのです。

モノを擦った時の抵抗力は F=μxW という式で表されます。(Fは抵抗力、μは摩擦係数、Wは荷重)

この式からも分かる通り、抵抗力は荷重と摩擦係数のみで決まり、接触している面積は影響しません。よくいただく質問に「面取りした場合に効きが落ちるのではないか?」というのがありますが、上述のように面取りしてもブレーキの効きが落ちることはありません。

しかし擦った時には熱が発生しますが、その熱によるブレーキパッド自体の温度上昇に面積(体積)が影響してきます。

大きい車やスポーツカーは擦った時のエネルギーが大きいので、小さいパッドではすぐに高温となり、早期摩耗やフェードを起こしてしまいます。それを防ぐ為に大きなパッドにして、温度を上がりにくくしているのです。少ないお湯はすぐ沸くけど、たっぷりのお湯はなかなか沸かない、というのと同じ原理です。

面積ばかりでなく、厚みも薄くなると温度が上がり易くなりますので、プレーキパッドの定期的なチェックは安全のために重要です。
第26号掲載
加速度や減速度を表すのによく「G」という言葉が使われるのは皆さんご存知のことと思います。
(高性能スポーツカーは加速の「G」が凄い!なんてよく言いますよね?)

さて、それではそもそもなぜ「G」というアルファベットで表現されるのでしょうか?
また1Gという加速度・減速度はどれくらいの速度の増減になるのでしょうか??

答え


「G」というのは重力(gravitation)の頭文字「G」から取ったものです。

物体を落下させると、地球の重力によって落下速度がどんどん増していきますが、この落下速度の増える量を「1G」とし、その値は地球上では9.80665m/s2と定めています。(この重力による加速度を「重力加速度」といいます)

さて、ここで加速度を示す単位の「m/s2」ですが、これを分解すると「(m/s)/s」となります。mは距離(メートル)、sは秒(セカンド)です。
つまり「m/s」は1秒当たりに進む距離で、すなわち速度を表します。
さらに「/s」が付くのは「1秒当たり」を示します。

つまり加速度・減速度は1秒当たりにどれだけ速度が増すか、あるいは減るか、ということになります。

ちなみに停止状態から時速100q/hまで加速するのに3秒かったとします。1Gの加速度であれば3秒後に35.3q/hx3秒=時速105.9q/hになりますが、100q/hまでしかいかなかったので、この時の加速度は比率として100/105.9=0.944Gとなります。

加速をする事ができるのは減速できるからで、車を減速させるのはブレーキです。

ディスクパッドは日々仕事をしていますので安全のためブレーキの定期的な点検をお勧めします。
 
 
第25号掲載
ディスクブレーキのパッドを交換する際などにピストンを押し戻していると思いますが、凄く抵抗が大きくて専用のピストン戻しツールなどを使わないとなかなかピストンが戻せませんよね?
もっと抵抗が小さければ作業が楽なのに・・・と思われている方もいらっしゃるかと思いますが、

さてその理由とは何でしょう?

答え


振動でピストンが戻ってしまわないようにするためです。

クルマが走行している時には路面の大小様々な凹凸により常に振動が発生しており、サスペンションのバネを境にして下についているブレーキにはこの振動が直に入ってきます。この振動によりブレーキパッドはピストンを叩いて押し戻そうとする作用をします。また片押しタイプのディスクブレーキキャリパでは、シリンダボディ自体もスライドピン上を振動して、ピストンがブレーキパッドを叩きますが、反作用としてやはりピストンを押し戻そうとする作用をします。

これらの作用によってピストンが戻ってしまうとブレーキパッドとディスクロータとの隙間が大きくなり、その分ブレーキペダルの踏み代が長くなってブレーキを踏んでから効き始めるまでの時間が長くなってしまいます。極端な場合にはブレーキペダルが床に当たるまで踏込んでもブレーキが全く効かない!という危険な状態になる可能性もあります。このような危険な状態になることを防ぐため、振動でピストンが戻らないよう摺動抵抗を持たせているのです。

安心・安全なカーライフには、ブレーキパッドの点検はもちろんの事、キャリパーの点検も必要ですね。
第24号掲載
自動車の油圧式ブレーキには、「ブレーキフルード」が使われます。

ブレーキフルードには沸点(ブレーキフルードが沸騰する温度)によって、「DOT3」とか「DOT4」などの種類があるのは皆さんご存知のことと思います。

さて、それではこの「DOT」とはなんでしょう?

答え


アメリカにおけるブレーキフルードに求められる性能は、米国連邦自動車安全基準(通称FMVSS)No.116のDOT*1規格で定められています。すなわちDOT規格は米国運輸省が定めた規格であり、日本においてもブレーキフルードのグレードを「DOT3」「DOT4」と呼ぶことが一般に浸透していますが、日本でもブレーキフルードはJIS規格でちゃんと定められている事をご存知でしたか?JIS規格ではブレーキフルードの略の「BF」を頭につけて「BF-3」「BF-4」としています。

基本的にDOT規格に準じているので、グレードを示す数値は合わせてあります。唯一DOT5(シリコーン系フルード)に対応するものはなく、DOT5.1(グリコール系フルード)に対応するのがBF-5となります。ちなみに国内カーメーカー純正のブレーキフルードなどの缶にはDOTではなく、「BF-3」とか「BF-4」と記載されてます。

ブレーキフルードはブレーキを動かすための血液のようなものです。このプチ知識を得たところで、ブレーキフルードは少しずつ傷むと言うことと交換の必要があることをお客様に説明して、定期的な点検・交換を推奨していきましょう。


*1 「DOT」とはDepartment of Transportation(=米国運輸省)の略。

第23号掲載
ブレーキには大きく分けてディスクブレーキとドラムブレーキがあります。

1970年代頃までは乗用車もフロントにドラムブレーキが使われている車両が多くありましたが、現在では乗用車のフロントブレーキはほぼ100%がディスクブレーキが採用されています。


フロントブレーキがディスクブレーキになった最大の理由はなんでしょう?

答え


ドラムブレーキはホイールシリンダの押しつけ力に対して、シューがドラムに巻き込まれる力が作用するので大きな効きが出ます。

しかしながらこの巻き込まれる力はライニングの摩擦係数のちょっとした変化で大きく変化する為、結果として摩擦係数のちょっとした変化によりブレーキの効きが大きく変化します。例えば朝一番に摩擦材が湿気を吸って摩擦係数が上がると、異常に効きが高くなってしまう、いわゆるカックン効きが発生してしまいます。

これに対しディスクブレーキはドラムブレーキのような巻き込まれるような作用が無いため、摩擦材のちょっとした変化に対して、効きもちょっとしか変化しないので、結果としてブレーキの効きが安定します。すなわち乗用車は効きの安定を求めてフロントブレーキのディスクブレーキ化が普及していったのです。

ただしドラムブレーキのような巻き込まれる作用がないので、ピストンからの押しつけ力に対する効きは高くありません。効きを高くするにはピストンからの押しつけ力を高くしないといけませんが、この高い押し付け力を可能にしたのがマスターバッグ(真空式倍力装置)なのです。
(エンジンを止めるとブレーキペダルが異常に重くなりブレーキがほとんど効かなくなりますが、マスターバッグがなければ人間の力だけでブレーキを効かせられる本来の状態なのです)
第22号掲載
何の気なしにパッドを見たらひびらしきものが出来ていました。
車は普通に使っていたつもりなのですが、ひびが入っているのを見てしまうとこのまま割れてしまうのではないかと心配になってしまいます。

パッドの側面にひびが発生しました。原因は何でしょうか?

答え


高負荷でブレーキを頻繁に使ったときに発生する場合が多いです。殆どの場合は、高温による摩擦材の熱劣化が原因となります。継続して使用できるか否かの判断は難しいもので、原則ひびが発生している場合は交換をお奨めします。

またヒビが入ってるように見えたらパッドに付着した摩耗粉を拭き取ってヒビと思われる部分をよく見て下さい。パッドは製造工程でガスが発生しますが、このガスを逃がす時にパッド側面にガスが通った後がシワになって残る場合があります。このシワに塗装をするとヒビに見える場合があります。摩耗粉を取り除いた下の塗装が割れていなければそれはヒビではありません。もし塗装も割れているようであればそれはヒビです。ヒビが小さいうちに必ず交換して下さい。小さいヒビでもブレーキを使うたびに大きくなってくるのでそのままでの使用は危険です。

普通にブレーキを使っても僅か数秒で100℃を超える高温になるブレーキパッド、普段から高負荷でブレーキを使わないようにしてひびの発生を防ぐことが大切です。急な坂を下るときにはブレーキのみに頼るのではなく、エンジンブレーキを併用してブレーキの負担を軽くすることです。

第21号掲載
昨今、装備品増加による車両重量増対策として、車両の軽量化が進みフェンダーや足回り(アーム類)の部品のアルミ化が進んでいます。もちろんブレーキもキャリパー等に軽量化のためアルミ素材が使われるようになりました。

さて、アルミ部品と鉄部品の組み合わさるところには、鉄−鉄では使われていなかった、何かしらの部品が一つ増えております。何の為でしょうか?

答え


このアルミ、”錆ない!!”と思われがちですが、実はしっかり錆びます。古い窓枠などで見受けられます白い粉、あれがアルミの錆です。

特に、異種金属と組み合わせ、更に水分等が間に介在してしまうと、電食という腐食が進み、アルミが侵食されボロボロになってしまいます。その為に、メッキ処理を施したり、メッキ処理を施した部品を間にかませる等して電食を防いでいるのです。

ドレスアップパーツなどでステンレスのボルトなどありますが、タペットカバーなどのアルミ材に使ってしまうと割れてしまうかもしれませんよ。

ブレーキもアルミキャリパーの取り付け部分には電食を防ぐワッシャが付いています。整備等で脱着が必要な時にワッシャーをつけ忘れると錆びてアルミが割れることも考えられます。またワッシャーが傷んでいても同様のことが起きる場合がありますので整備時に充分な注意が必要です。