ブレーキ豆知識 交換促進ペーパー
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第48号掲載
自動車のブレーキキャリパーには一般的には鋳鉄製が主に使用されていますが、スポーツ系のクルマや最近ではハイブリッド車などにはアルミ合金製の素材で出来たものが用いられることがあります。

さて、ここで問題です!
どうしてアルミ合金製が用いられることがあるのでしょうか?


答え


ブレーキのパーツに求められる要素は以下の要素がポイントになります。

1. 剛性があり、変形しにくいこと
2. 軽いこと
3. 強度が保たれること
4. 成形性、加工性が良いこと

アルミ合金は強度は鋳鉄の約1/2程度ですが、比重は鋳鉄の約1/3程度です。

したがって、鋳鉄製のキャリパーと同等の強度・剛性を確保しようとした場合、単純計算では必要な体積は2倍になりますが、体積を2倍にしても比重は鋳鉄の約1/3なので、結果として2x1/3=2/3と、重量は鋳鉄の2/3で済むことになります。

このような理由から、軽量であることが必要なスポーツカー(運動性能に影響)やハイブリッド車(燃費に影響)ではアルミ合金製のキャリパーが用いられています。

第47号掲載
乗用車のブレーキはブレーキフルードを作動媒体とした油圧式が採用されていますが、最近の中・大型トラック・バスのブレーキには一部例外もありますが「空気」のみをブレーキの作動媒体としたフルエア式と呼ばれる空気圧を利用したブレーキが採用されています。よくトラックやバスからプシュッという音が出ているのを耳にすると思いますが、あれはブレーキを解除する時に作動に使っていた圧縮空気を抜く音なのです。

さて、ここで問題です。
中・大型のトラック・バスのブレーキには、なぜフルエア式が採用されているのでしょうか?


答え


フルエア式ブレーキの採用の理由は、空気圧から油圧への変換*1が不要で、且つ諸外国ではフルエア式が一般的であり、システム形式の共通化が図れるためです。

もともと日本では油圧式のブレーキが発展してきましたが、大きくて重いトラックやバスでは、マスターシリンダーを押す力は人間がブレーキを踏む力とエンジンの吸入負圧(あるいはバキュームポンプにより発生させる負圧)を利用するマスターバッグによる倍力効果だけでは高い油圧を発生させることが出来ないので、ブレーキの効きが足りなくなりました。

その後、油圧式のブレーキはそのままで、マスターシリンダーを押す力を圧縮空気を利用することで非常に高い油圧を発生できるようになり、中・大型トラック・バスのブレーキシステムは「エアオーバーハイドロリックブレーキ」が主流となりました。

しかし諸外国ではフルエア式が一般的であることに加え、せっかく高い空気圧があるのだからわざわざ油圧に変換させず直接作動に用いれば良い、またブレーキフルードが不要である等の理由も重なり、2000年頃より中・大型トラック・バスのブレーキはフルエア化が進み、現在では殆どがフルエア式になっています。


*1 日本の中・大型のトラック・バスのブレーキは、従来、空気圧を油圧へ変換し油圧式ブレーキを作動させるエアオーバーハイドロリックブレーキ(Air Over Hydraulicの頭文字を取りAOH式と呼ばれる)システムが用いられてきました。これは、空気圧によりマスターシリンダーのピストンを押して高い油圧を発生させ、油圧式のブレーキを作動させるというエアー/液圧複合式です。
第46号掲載
よくクルマ雑誌などを読んでいると「新品のディスクパッドに換えたときには、左足でブレーキを軽く踏みながらブレーキを引き摺らせてしばらく走り、ディスクパッドに焼きを入れると良い」と書いてあったりします。本当に良いのでしょうか?また、焼きを入れることによってどんなメリットが出るのでしょうか?


答え


まずブレーキを強引に引き摺らせてディスクパッドを高温にさせたとき(焼きを入れたとき)に何が起こるかを説明します。

ディスクパッドは様々な材料をフェノール樹脂という成分で固めて形成していますが、高温(200℃を超える温度)になると、このフェノール樹脂が熱によって分解を始めガスが発生します。

この発生したガスがディスクパッドとディスクロータの間に介在すると、ディスクパッドがディスクロータから浮いたような状態になり、ブレーキの効きが低下します。これがいわゆる「フェード」といわれる現象です。

あらかじめ焼きを入れてフェノール樹脂分を抜いておけば、その後高温になった際にフェノール樹脂の熱分解によるガスの発生を抑えられるので、フェード現象が起きにくくなる(効きの低下が抑えられる)というメリットがあります。

しかしその反面、材料を固めていたフェノール樹脂が失われているので、ディスクパッドはもろくなり摩耗が早くなってしまいます。
またフェノール樹脂の抜けたところは小さな空洞となって水分を取り込みやすくなり、水分を取り込むと摩擦係数が高くなってしまうため、朝一や雨の日の乗り始めなどに鳴きや異音が出易くなったりします。

実は新車に装着されているディスクパッドの多くは、フェード現象が起こった際の効きの低下の抑制と、摩耗や鳴き・異音とのバランスを考慮したうえで、製造段階で非常にシビアな温度管理の基に「表面焼き」という工程を行なっています。すなわち「焼き入れ」はしてあるのです。

一般的な走行では200℃を超える高温になることは殆どありませんので、新品のディスクパッドに換えた際に焼きを入れるという作業は不要ですし、一般道でブレーキを引き摺らせて意図的にフェード状態にすることは大変危険ですので絶対に止めましょう。

第45号掲載
片押し式のディスクキャリパーにはスライドピンが2本ありますが、一本は先端にゴムのブッシュが付いています。たまにこのゴムが膨れていて、キャリパーの動きが悪く引き摺ってしまうことがあるので外してしまうことがあるのですが、外してしまうと何か問題が発生するのでしょうか?


答え


幣社製品の場合、ゴムブッシュのついているスライドピンを「ロックピン」、ゴムブッシュのついていないスライドピンを「ガイドピン」と呼んでいます。

ガイドピン(ゴムブッシュのついていないピン)は、組付け相手となるマウンティングサポートのピン穴とのクリアランスが小さく、ほぼガタツキがないようにできていますが、ロックピンはゴムブッシュをつけていない状態だと、マウンティングサポートのピン穴に対してガタツキが若干生じるようにできています。

つまりロックピンはガイドピンより若干「細い」ということになりますが、これには理由があります。

本来可能であればロックピンもガイドピンと同等のガタツキのないクリアランスにしたいところなのですが、マウンティングサポートのピン穴の直径のバラツキや2つのピン穴同士の距離のバラツキ、そしてシリンダボディの2つのピン穴同士の距離バラツキやピンの直径のバラツキなど、各部の寸法の微小なバラツキが積み重なった際に、両方ともピンとピン穴のクリアランスが小さいと、片方のピンが組付けられても、もう片方のピンがサポートのピン穴に入らなくなってしまうのです。

そのため、ロックピンはガイドピンに比べて僅かに直径を小さくし、各部寸法がバラついてもマウンティングサポートの穴に組めるようにしています。
しかしピンの直径が小さい分、マウンティングサポートのピン穴とのクリアランスが大きくなりガタついてしまうので、ゴムブッシュを設けることによってガタツキを抑えています。

したがってロックピン先端のゴムブッシュを外してしまうと、たとえば凸凹のある道路を走った際などに、ロックピンがマウンティングサポートのピン穴内で暴れてしまい「カチカチ」と打音がしたりしてしまう可能性があります。

なお、ゴムブッシュが膨れていることがあるとの事ですが、これは鉱油系のグリースをスライドピン部に使用した、あるいは石油系溶剤のパーツクリーナを使用し、ピン穴内部に残留したまま組付けたことによってゴムブッシュが膨潤したものと考えられます。ゴムブッシュはEPDMという材料のゴムで出来ていますが、鉱油系のグリースやオイル、石油系溶剤が付着すると膨潤してしまいますので、パーツクリーナーなどでピン穴内部を洗浄した際には十分にエアブローなどして完全にパーツクリーナーの成分を飛ばしてから必ずゴムを侵さないラバーグリースを使用し組み付けて下さい。

第44号掲載
ブレーキ周りの交換部品といえば、ブレーキパッド・シュー、フルード、ゴム部品です。今回はゴム部品の「シール・ピストン」についての問題です。
何の変哲もない、ただの丸いゴムに見えるシール・ピストン。ところがこのゴムがブレーキにとっては非常に重要な働きをしています。

ずばりこの「シール・ピストン」の機能とは何?


答え


「シール・ピストンとシール溝の働き」

1) ブレーキ液の漏れを防止する機能(ピストンシールで気密性を確保する)

ブレーキ液が漏れると、ペダルストローク増加(ペダルフィーリング)となり最悪ノーブレーキ
状態に至ります。



2) 液圧解除後のピストンを適正な位置に戻す(引きずりが発生しない軸方向の適正パッドクリアランス確保)

ゴム(シール)の弾性を利用して、制動後のピストンを適正位置に戻します。ピストン戻り量が多いと、次の制動時ペダルストロークが深くなります。


3)ディスクブレーキのオートアジャスター機能

パッドの摩耗に対し、ピストンは追従しながら前に出て、常にペダルストロークの変化がでない様にする機能。

ピストンシールはシール溝に組み込んだ時のシメシロ(ゴム弾性)と、シール溝の前面取り量と面取り角度でピストン戻り量を調整しています。


4)シェイクバック・ノックバックを防ぐためのピストン抵抗値確保

走行時に発生する路面からの振動(シェイクバック)、旋回時(ノックバック)のロータ倒れ及び横Gによってピストンが戻される現象を防ぐための抵抗値確保。

ピストンが上記現象によって戻された状態下(パッド〜ピストンのクリアランスが大)で、次の制動に入るとペダルストロークが深くなりブレーキが効かないと運転手が感じます。
ピストン抵抗値を上げすぎると(ピストンシールシメシロUP:溝浅orシール厚みUP)、ノック&シェイクバックに対しては効果出ますが、シール機能(ゴム弾性)が不安定となり種々の不具合現象が懸念されます。


(ピストンの戻りすぎ=ペダルストローク大or戻らない=引きずり発生)

ゴムでシメシロが大きすぎるとゴムの弾性特性が低下します。シール溝内のシールに置き換えて表現すると、ゴムは弾性効果のでない状態で突っ張ていると仮定されるため、シールとピストンの関係はゴムの戻り効果のでない領域(限界値)となります。
以上から、加圧するとシールとピストンは滑り、クリアランスを潰した状態=引きずり大となるケースも発生します。

たかがゴムのリングですが、ブレーキという重要な機能をつかさどる部品です。定期的な点検は欠かせませんよね。

第43号掲載
片側だけピストンがあるディスクキャリパー(フローティングタイプ、片押しピストンタイプと呼ばれるもの)が現在のディスクキャリパーの主流となっていますが、いろいろなクルマを見てみるとピストンが1つのもの(1POT)と2つあるもの(2POT)があります。

ディスクパッドを押し付ける力はピストン面積の合計で決まりますが、ピストン面積の合計がほぼ同じなのにピストンが1個のものと2個のものがあったりします(2個のものはピストンがその分小さい)。つまりピストンが2個あっても、ピストンが1個だけのものとパッドを押しつける力は同じで、つまり効きは同じなのです。

さて、そこで問題です。
ピストンの数の違いはどのような理由によるのでしょうか?


答え


答えはパッドを長くした際に、全体を均一に押し付ける為です。

クルマとして必要なブレーキの効きはクルマの重量で決まってきます。しかしながら第27号第34号で記載した通り、同じ重量のクルマでも高い速度からブレーキを掛けると運動エネルギーが大きいために発生する温度が高くなります。

そこでパッドを長くし体積を増やすことによってパッドの温度を上がり難くするのですが(少しのお湯はすぐ沸くが、たっぷりのお湯はなかなか沸かないのと同じ原理)、パッドが長くなると1つのピストンではパッド全体を均一に押し付けることが出来なくなってしまいます。そこでピストンの数を増やしてパッド全体を均一に押し付けるようにします。

重量の重いクルマも同様にパッドを長くして温度が高くなり難いようにしているため、2POTのキャリパが多く採用されています。

第42号掲載
車両を整備する際に参考にするサービスマニュアルですが、部品をネジやボルトで止めているところには必ず「締付けトルク」というものが規定されています。さらに、場所によってはグリスあるいはオイルを塗布してから締付けるように指示されていたりします。

さて、ここで問題です。ネジやボルトにグリスやオイルを塗ると、塗っていない場合に比べどのような効果が期待できるでしょうか?


答え


グリスやオイルを塗布することにより、摩擦係数を安定させるためです。

ボルトの締付け力はねじ面、座面における摩擦に支配されています。通常のドライ状態での摩擦係数は0.15〜0.3程度ですが、グリスやオイルを塗布すると摩擦係数は0.05〜0.08程度へ下がり、且つばらつきは小さくなります。

ちなみに締付けトルクのうちの90〜95%は、ねじ面・座面の摩擦に打ち勝つ為に使われてしまいます。よって本来の目的である軸力(締付ける力)発生には僅か5〜10%しか使われていないことになります。

ボルトには締付けによって生じる力と締付け物から受ける力が掛りますが、ボルトのサイズ、材料、使用本数、そして締付けトルクはこれらの力を繰返し受けても疲労破壊しないように設計します。

エンジンのコンロッドをクランクシャフトに固定するボルトのように、非常に大きな力を繰返し受ける部位に用いるボルトでは、ボルトが疲労破壊を起こさないよう安定した狙い通りの締付け力を確保するために、オイルやグリスを塗布して締付けるように指示されていることがあります。

逆に言うと、ドライ状態での締付けを想定されているボルトにグリスやオイルを塗布して締付けると、摩擦係数が低くなることによって締付け力(軸力)が大きくなることになり、“締付け力過多"の状態となります。タイヤ交換時にハブボルトにオイルを塗って力一杯締め付けると、バブボルトが破断しやすいのはこのためです。

よって特に指定のない限りは、むやみにグリスやオイルを塗らないようにしましょう。

第41号掲載
ハイパワーなスポーツカーはいつの時代もクルマ好きの憧れですよね。そんなスポーツカーのブレーキに目を向けると、大きくてカラフルでかっこいいアルミ製の対向ピストン型キャリパーが装着されているクルマが多いですよね。

さてこのアルミ製の対向ピストン型キャリパーですが、エア抜きを行う際に使用するブリーダースクリューを良く見ると、シリンダボディにねじ込んでいる根元にリング状のゴムが装着されているのをお気づきでしたか? このリング状のゴムは通常の鋳鉄製キャリパには使われていません。

さて、このリング状のゴム部品は一体何の目的で装着されているのでしょうか?


答え


ネジ部への水の浸入によるアルミの腐食(電食)を防ぐ目的で装着されています。

アルミは鉄に比べて比重が約1/3と非常に軽量なことから、スポーツカーなどの対向ピストン型ブレーキキャリパの材料として用いられることがありますが、アルミには他の金属と接触し、そこに水分が介在すると腐食を起こしやすい、という性質があります。この腐食する現象が俗に言う「電食」です。

電食の正式な名称は「異種金属接触腐食(=ガルバニック腐食)」と言います。

電食の起こるメカニズムは、異なる種類の金属が接触して水などに浸された場合、イオン化傾向*1の大きい金属(アルミ(キャリパボディ))が+、イオン化傾向の小さい金属(鉄(ブリーダスクリュー))が-となります。するとその電位差により微量電流が生じます。この電流の電気分解作用によって+側の金属(アルミ)がイオン化し腐食します。

アルミが電食を起こすと、白い粉のような結晶が生じます。皆さんもお家の窓枠のアルミサッシなどで白い粉みたいなものが噴いているのを見たことがありませんか?

このように何の変哲もない小さな部品でも、ちゃんとした目的があって装着されていますので、整備の際に「無くても構わないだろう」と独自の判断で破棄してまったりせず、正しく整備を行なうことが部品の性能を長く維持するためには必要です。

*1 イオン化傾向とは水溶液中で電子(-) を放出して陽(+) イオンになろうとする性質